今回は、物語の王道の型である「ヒーローズジャーニー改」について掘り下げます。
前回に続くゲームシナリオ入門なので、前回の内容も踏まえながら読んでもらえると分かりやすいと思います。
1. ヒーローズジャーニープロットとは
ヒーローズジャーニープロットは、神話学者のジョセフ・キャンベルが『千の顔を持つ英雄』の中で提唱した「神話の法則」がベースになっています。
キャンベルは、古今東西のあらゆる神話を調べました。日本の神話、ギリシャ神話、ネイティブアメリカンの伝承に伝わる物語などです。
その結果、何千年も語り継がれてきた物語には共通の法則があると発見しました。それを「神話の法則」として発表したわけです。
その考え方をもとにして、『ライオンキング』などの脚本に関わったクリストファー・ボグラーが、独自にヒーローズジャーニープロットを作りました。
最初は匿名で作っていたそうですが、あまりにハリウッドで人気になりすぎて、匿名で配られていたファックスの切れ端のコピーが大量に出回りました。中には「あれは俺が作った」と名乗る偽物まで出てきたそうです。
そこでボグラーが名乗り出て、参考文献にも入れている『最強の物語の法則』という本にまとめています。
1-1. 本によって少しずつ違う
ヒーローズジャーニーはいろいろな本に出てきますが、それぞれ少しずつ内容が違います。
Aという本ではこう言っている。Bという本では少し違うことを言っている。そういう差があります。
そこで、複数の情報をかいつまんで「およそこうだろう」と僕がまとめたものが、今回紹介する「ヒーローズジャーニープロット改」です。
正確には、キャンベルの神話の法則とも違います。ボグラーのヒーローズジャーニープロットとも違います。ただ、大筋では合っているという理解で読んでください。
1-2. 裏付けはあるが万能ではない
コーネル大学の研究でも、一定の成果が示唆されています。
いろいろなヒット映画のプロットの型、正しくは物語の中にある感情の起伏のようなものを調べたところ、このヒーローズジャーニーに似た型が最もヒットする確率が高かったそうです。
一方で、否定的な意見もあります。
漫画家のさそうあきらさんの『漫画脚本概論』でもヒーローズジャーニーに触れられています。さそうさんも、これをやったから必ずヒットするわけではない、と述べています。
ヒーローズジャーニー型でもヒットしていない作品は山ほどあります。逆に、これを使っていなくてもヒットしている作品も山ほどあります。
普通に物語を作ると、大体このヒーローズジャーニーに近くなってしまうのではないか、という見方もあります。
つまり、魔法のような万能の型ではないということです。
ただ、ヒーローズジャーニーを知った上でいろいろな物語を見ると、見え方が少し変わります。そこが面白いところです。
2. 三幕構成のおさらい
ヒーローズジャーニーは、三幕構成をより細かく分けたものとして捉えると分かりやすいです。
三幕構成は、1970年代に映画脚本家のシド・フィールドが提唱したハリウッド映画の型です。
| 幕 | 名称 | 内容 |
|---|---|---|
| 第一幕 | 日常の崩壊 | 主人公の日常を崩壊させるトラブルや敵が登場。しぶしぶ問題解決を強制される |
| 第二幕 | 対立と葛藤 | 問題解決のために主人公が色々と葛藤する。最善だと思った選択が逆に不幸を招くパターンが一般的 |
| 第三幕 | 解決 | 対立と葛藤を経て問題が解決。主人公が変化し、始まりより良い日常が手に入る |
もちろん、すべての作品がこの通りになるわけではありません。
たとえばホラー映画では、最初に良い日常があり、最後は解決したと思ったら最初より悪くなる、というパターンもあります。
今回はネタバレありで、シュガー・ラッシュ、アラジン、シンデレラ、トイ・ストーリー、アンチャーテッドなどを例に紹介していきます。
3. ヒーローズジャーニー12のプロット

ここから、ヒーローズジャーニーを12の段階に分けて見ていきます。
3-1. 日常
最初に描くのは、主人公の日常です。
主人公がどんな時代、場所、生活レベルで生きているのか。周囲の人とどんな関係を持っているのか。そうした土台を見せます。
- トイ・ストーリーのウッディ — おもちゃのリーダーとして順風満帆な生活を送っている
- シュガー・ラッシュのラルフ — ゲームの悪役として、毎日ヒーローのフィリックスに倒される役を演じている。その生活に不満があり、「自分も1回でいいからヒーローになってみたい」という想いを抱えている
この時点で描くといいのが、主人公が日常に抱いている不満と、求めているお宝です。
また、主人公はまだ至らない未熟者であることが多いので、前回紹介したセーブ・ザ・キャットの法則を使うと効果的です。
『シュガー・ラッシュ』では、ラルフがチェリーを集めて食べようとしている場面があります。そこに、小さいタコのような生き物が、お腹を空かせて「僕はチェリーを取ることができなかった」と落ち込んでいます。
それを見たラルフは、自分の分のチェリーをあげてしまいます。結局、自分は食べるものがなくなり、寂しく悪役のアパートに帰っていく。
このシーンを見ると、ラルフに反感を持つ人は少ないはずです。
3-2. 事件
次に、日常を切り裂く事件が起きます。
トラブルや出会いによって、主人公は否応なしに非日常へ放り出されます。
- トイ・ストーリー — バズ・ライトイヤーというライバルが出現する
- シュガー・ラッシュ — ラルフがゲームを飛び出して、別のゲームの世界に行ってしまう
- アラジン — ジャスミンが城下町を歩いていたのを助けたことをきっかけに捕まり、牢屋に入れられ、ジャファーという変なおじさんにそそのかされてランプを取りに行かされる
ここまでが物語の掴みで、作品の大体10%以内に納めるのがセオリーだそうです。
この場面で主人公に誤った選択をさせたり、至らないところを見せたりしておくと、終盤で主人公が成長したときに変化が際立ちます。
3-3. 決意
主人公は、問題解決のためにしぶしぶ変化への挑戦を決意します。
この「しぶしぶ」が重要です。自分の意思で前向きに変わろうとしているというより、事件の影響で仕方なく変化を迫られることが多いです。
- 指輪物語のフロド — おじさんから指輪を渡されてしまったために変な奴らに追いかけられるようになり、ガンダルフに「この村にいると村が滅ぼされるから逃げよう」と言われて、しぶしぶ村を追われる
そして、この時点で主人公が考えている問題の解決策は、往々にして間違いです。
- トイ・ストーリーのウッディ — バズを追い出せば日常が戻ると考える
- シュガー・ラッシュのラルフ — メダルがあればヒーローになれると考える
彼らは中盤で、その考え方が間違いだったと気づくことになります。
ここまでの「日常」から「決意」までが、三幕構成の第一幕「日常の崩壊」に相当します。
3-4. 困難
主人公は問題解決のために試行錯誤しますが、まったくうまくいきません。
原因はさまざまです。
- ライバルが強大だったり
- 主人公に才能がなかったり
- 足を引っ張る人物がいたり
ただ、1番の問題は誤った解決策を試していることである場合が多いです。
- トイ・ストーリーのウッディ — バズの人気を落とそうとする。もちろん誤った解決策です
- アンチャーテッドのネイト — フランシス・ドレイクの子孫を自称する主人公が、先祖の汚名を晴らすために財宝を見つけようとする。それが自分にとっての幸せや証明になると考えているが、本当の宝ではないと後で気づく
たとえば『ロッキー』では、ライバルのアポロ・クリードはとても強いです。主人公ロッキーも才能豊かな人ではなく、中途半端なボクサーです。さらに、ポーリーという足を引っ張る友達もいます。
いろいろな困難が複合的に降りかかってくるわけです。
3-5. 導き
次に、問題解決の糸口が与えられます。
メンター、仲間、アイテムなど、主人公を導く何かが登場するパートです。
- シュガー・ラッシュ — バネロペという女の子との出会い
- アラジン — ランプの魔人、ジーニーが登場する
- シンデレラ — 魔法使いがかぼちゃの馬車やドレスを与えてくれる
- ハリー・ポッター — ダンブルドア校長
- 指輪物語 — 賢者ガンダルフ
RPG系では、「賢者が現れる」というパターンが多いですね。
3-6. 偽の解決策
導きで与えられた糸口によって、一時的に問題が解決したように見える場面が来ます。
ただし、ここに出てくる解決策は往々にして偽物です。
- アラジン — 魔法で偽の王様になる。自分はドブネズミという身分で、ジャスミンとは身分が違いすぎる。だから金持ちの王様になればなんとかなると考え、魔法の力で偽の王様になって王宮に招かれる
- シンデレラ — 魔法使いの魔法によってドレスなどをまとい、舞踏会に参加する
本当の解決ではないのに、一見うまくいったように見える。このズレが、後の崩壊につながります。
3-7. 偽の勝利
偽の解決策のおかげで、主人公はつかの間の勝利を手に入れます。
- アラジン — ジャスミンと魔法の絨毯で「ア・ホール・ニュー・ワールド」を熱唱する場面
- シンデレラ — 王子とダンスを踊る場面
- シュガー・ラッシュ — キャンディ大王からメダルをもらう。「あんた、これでヒーローになっちゃいなよ」と言われる
このあたりで、物語を見ているユーザーはかなり心がざわざわするはずです。
なぜなら、この主人公のつかの間の勝利が、嘘や間違った解決策によってもたらされていると分かっているからです。
勝利の雰囲気とは裏腹に、この後に転落するのではないかという破滅の予感が漂います。アラジンの嘘はバレるし、シンデレラの魔法は解けると、ユーザーは知っているわけです。
特に映画はヒーローズジャーニーに沿っていることが多いので、偽の勝利の場面が来ると「あ、ここだな」と分かりやすいと思います。

3-8. 崩壊
偽の勝利でうやむやにしていた問題が発覚し、積み上げてきたものが崩壊する場面です。
- シュガー・ラッシュのラルフ — キャンディ大王に騙されてメダルをもらった代わりに、バネロペの車を破壊してしまう。メダルがバレて、バネロペとの関係も大きく崩壊する。「信じてたのに」と大泣きされ、ラルフはとぼとぼと元のゲームに帰っていく
- アラジン — ジャファーがジーニーを味方につけて魔法使いになり、アラジンの嘘がバレる。ただのドブネズミだったことが皆の前で明かされ、さらに世界の果てまで飛ばされる
- シンデレラ — 魔法が解ける
- トイ・ストーリー — ウッディのせいで、ウッディとバズが家に帰れなくなる
- アンチャーテッド — 主人公のネイトが諦める。「もう冒険はやめた、俺は帰る」と言い出す。全シリーズで恒例になっている名物シーン
ここで重要なのは、主人公が崩壊の原因を、自分が偽の解決策を良しとしたせいだと理解して認めることです。
自発的に気づくパターンもあります。仲間からの叱咤で気づくパターンもあります。
いずれにせよ、主人公はどん底に落ちます。
3-9. 気づき
どん底で、主人公は本当の解決策、本当にやるべきことに気づきます。
- シュガー・ラッシュのラルフ — メダルを「こんなメダルいらねえや」と投げた拍子に、バネロペが元々ゲームのキャラクターだったことに気づく。キャンディ大王がプログラムを書き換えて偽造していたことが分かり、「メダルじゃねえ、バネロペをヒーローにしよう」と決意する
- トイ・ストーリーのウッディ — バズと対立するのではなく、一緒に協力して家に帰ることを決意する
主人公は本当の解決策を頼りに、もう一度問題解決のために立ち上がります。
この時点で、主人公は日常から精神的な変化を遂げたことになります。
ここまでの「困難」から「気づき」までが、三幕構成の第二幕「対立と葛藤」に相当します。
3-10. 再挑戦
ここから、三幕構成の第三幕「解決」が始まります。
気づきで得た本当の解決策を武器に、最大の敵と戦う場面です。いわゆるラスボス戦ですね。
- シュガー・ラッシュのラルフ — バネロペと共にレースに参加してゴールを目指す
- トイ・ストーリーのウッディとバズ — 引っ越しのトラックに向けて走る
- アンチャーテッドのネイト — 財宝を諦めて、世界を支配しようとする悪者を追いかける
このあたりで、主人公と周囲のわだかまりが解けて、主人公を応援する声が多くなることがあります。
『トイ・ストーリー』では、ウッディのことを嫌い始めていた仲間たちが「頑張れウッディ」と応援するようになります。
余談ですが、『アンチャーテッド4 海賊王と最後の秘宝』の再挑戦のシーンはとても感動的です。
ずっと1作目から支えてくれていた妻のエレナを裏切ってしまうのですが、そのエレナがなんやかんやで結局ネイトを助けに来て、共に最後の戦いに挑んでいく。このシーンはぜひ遊んで見てほしいです。
3-11. 勝利
敵を倒し、問題を打破します。
このとき、序盤に見せていた伏線やアイデアが用いられることが多いです。
- シュガー・ラッシュ — サイバグ、つまりバグのプログラムがビーコン、つまり光に集まる習性を冒頭で見せていて、ラルフがそれを思い出してサイバグを倒す
- トイ・ストーリー — 冒頭で少しだけ見せていた「バズが飛べる」という設定が、最後の最後で生かされる
- アラジン — ランプの魔人は自由を奪われるという根本的な設定が生かされる。ジャファーが「俺をジーニーにしろ」と願った結果、ランプに閉じ込められる
他にも、『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』に出てきた空飛ぶ棒のようなものが最後に仲間ドクの命を救います。
『インディ・ジョーンズ 最後の聖戦』では、一度も主人公を名前で呼ばない父ちゃんが、最後の最後で「インディアナ!こっちへ来い」と名前を呼びます。それによって主人公が正気を取り戻すシーンがあります。
冒頭から繰り返し見せていたものを、最後に使う。これはかなり良いアイデアだと思います。

3-12. ヒーローの帰還
最後は、問題が解決して宝を手に入れたヒーローが帰還することで物語が終わります。
これが、ヒーローズジャーニーと呼ばれる理由です。
ここでいう「宝」は、金銀のことだけではありません。愛、友情、平和のように、形のないものであることが多いです。
主人公は最初の日常に戻ってくることが多いです。1番の日常と同じ舞台に帰ってくる。ただし、宝を手に入れたことで日常が変化している。
- シュガー・ラッシュのラルフ — 結局、元のゲームに戻る。ゲームの悪役という不満を抱えていた日常に戻り、「うわあやられた」とやっているが、そのときの表情はとても晴れやか。窓の外を見ると、シュガー・ラッシュのゲーム画面にバネロペがちゃんと参加できていて、カートで楽しんでいる姿が見える。「この景色も悪くない」と言って終わる。とても美しい終わり方
- トイ・ストーリー — 冒頭と同じアンディの部屋に戻ってくる。ただし冒頭と違うのは、ウッディとバズが仲良しになっていること。最初より幸せそうに見える
共通しているのは、序盤に思っていた宝とは違うものを手に入れていることです。
ラルフはメダルを手に入れたかった。でも、本当に必要だったものは違いました。
ウッディはバズの人気を落として自分が人気者になろうとしていました。でも、2人で人気者になれることに気づきました。
アンチャーテッドのネイトも、宝を持ち帰れませんでした。それでも、晴れ晴れとした表情で恋人エレナの肩を抱いてエンディングを迎えます。
まとめ
ヒーローズジャーニー12のプロットをおさらいします。
- 日常 — 主人公は日常を生きている。不満を抱えている
- 事件 — 日常を切り裂く出来事が起きる
- 決意 — しぶしぶ冒険に出ることを決める
- 困難 — 敵は強く、踏んだり蹴ったりで挫折しそうになる
- 導き — 仲間やアイテムとの出会いがある
- 偽の解決策 — 導きによって間違った方向に行ってしまう
- 偽の勝利 — つかの間の勝利を手に入れる
- 崩壊 — 嘘やごまかしがバレて、すべてが崩壊する
- 気づき — 本当にやるべきことに気づく
- 再挑戦 — 本当の解決策を武器にラスボスに挑む
- 勝利 — 伏線やアイデアを活かして敵を倒す
- ヒーローの帰還 — 序盤とは違う「本当の宝」を手に入れて日常に帰る
ヒーローズジャーニーは、使えば必ずヒットする万能の型ではありません。
ただ、この流れを知った上でいろいろな物語を見ると、今後の見方が変わると思います。参考程度に使ってみてください。

